1986年、当時13才の私は、新聞記者だった親に連れられてアメリカへ渡りました。
ハイスクールの頃、絵描きの母と姉に対抗し、私は写真で表現したいと思うようになります。ニューヨークの美術大学で写真を専攻。卒業後もニューヨークに残り、写真家として活動を始めました。
駆け出しの写真家として必死に暮らす毎日。忙しさに追われる日々に不安と疑問を抱き始めたころ、祖父の生まれた沖縄を旅してみようと思い立ちます。1999年の夏でした。
珊瑚礁の島は、まさに楽園そのものでした。
私が暮らしていたニューヨークは、自由な空気が流れる魅力的な街。世界中の金持ちも貧乏人も入り混じり、何が起こるか分からないワクワクするような場所です。しかし訪れた沖縄の島は、ニューヨークのそれとはまったく別の、強烈な魅力に包まれていました。
あっけらかんと晴れ渡った青い空にはモクモクと入道雲が広がり、ワサワサと風に揺れるバナナの葉、原色のピンクと赤紫に咲き乱れるブーゲンビリア、たわわに実を付けたパパイヤにパッションフルーツ。そしてそこに暮らす人々は、自然と直結したようなたくましさと生命力に溢れていました。
秋にニューヨークへ戻った私は、荷物の整理をし、その年の冬には13年間暮らしたアメリカを後にします。沖縄のはるか南、人口300人の小さな島に移り住んだのです。濃密な島文化の中、それから10年の時が経ちました。
「南のひと」は、私が暮らす沖縄の島でともに生活する隣人を撮影したシリーズです。
夕日にたたずむ思春期の少女、海大好きの青年、満開のブーゲンビリアと友人の母、小粋な婦人とパパイヤの木‥‥。その一人一人が一番大事に持っている空気や光を凝縮して撮影しました。 流れ往く時の中、人々とともに生きてきたからこそ、「南のひと」は生まれました。
2009年3月